脂質異常症とは、コレステロールがたかくなる病気の総称です。血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)のバランスが崩れ、動脈硬化のリスクが高まります。
以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、コレステロールが高いだけでなく、ある種類のコレステロールが低すぎる場合も問題となるため「脂質異常症」と呼び名がかわっています。
脂質異常症とは?
脂質異常症と一言で言っても種類が複数あります。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い
- 中性脂肪(トリグリセリド)が高い
脂質異常症は生活習慣病の一種であり患う方も多い疾患です。
また、脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断や血液検査で指摘されることが多い病気です。ただ、症状がないことがほとんどで放置したくなってしまう病気でもあります。
しかし、LDLコレステロール上昇は将来的な冠動脈疾患のリスクとされ、LDLコレステロールが30mg/dL上がると男性で1.3倍、女性で1.25倍、冠動脈疾患の発症、死亡リスクが上がるという報告があり決して侮れない病気です。
*Imano H, et al. Low-density lipoprotein cholesterol and risk of coronary heart disease among Japanese men and women: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Prev Med. 2011; 52: 381-6.
脂質異常症の原因とリスク要因は?
脂質異常症の原因はなんなのでしょうか。
原因としては下記のようなものがあります。
- 食生活の乱れ(高脂肪・高カロリー食、糖分の過剰摂取)
- 運動不足(脂質の代謝が悪くなる)
- 肥満・メタボリックシンドローム
- 喫煙・過度な飲酒
- 遺伝的要因(家族性高コレステロール血症など)
- 糖尿病・甲状腺機能低下症(脂質代謝が乱れる)
脂質異常症の原因としては生活習慣や遺伝的要因によるものが多いです。また、一部で遺伝性の疾患があったり、甲状腺というホルモンを産生する臓器が悪い場合もあります。
脂質異常症が引き起こす病気は?
脂質異常症は、下記のような病気のリスクが高いまります。
- 動脈硬化(血管が硬くなり詰まりやすくなる)
- 狭心症・心筋梗塞(心臓の血管が詰まる)
- 脳梗塞・脳出血(脳の血管が詰まる・破れる)
- 閉塞性動脈硬化症
とくに動脈硬化の進行によりリスクが高まる心筋梗塞や脳梗塞は命に関わる大きな病気であり、十分に注意、治療をする必要があります。
また、心筋梗塞を一度起こした方は通常の治療よりより厳密にコレステロールの治療を行う必要性が研究で証明されガイドラインにも記載されています。
脂質異常症の診断方法は?
脂質異常症は、主に血液検査によって診断されます。具体的には下記の項目です。
疾患名 | 定義 |
---|---|
LDLコレステロール(LDL-C)血症 | 140mg/dL以上 |
HDLコレステロール(HDL-C) | 40mg/dL未満 |
トリグリセライド(TG) | 150mg/dL以上 |
しかしこれはスクリーニングのためのものであり、薬物療法を開始するための値ではないため、これを超えたら即内服治療を行うわけではありません。
それぞれの患者さんごとのリスク評価を行い、お薬による治療が必要なのか?を検討します。
また、頸動脈エコーやABI(足関節上腕血圧比)検査などを行うことで、脂質異常症による動脈硬化の状態を評価する場合もあります。
脂質異常症の治療方法
脂質異常症の治療には、生活習慣の改善が最も重要で誰でも適応です。
さらに脂質異常症の薬物治療が必要かどうかは、背景にあるリスクの数が、既往症によって大きく変わります。
食事療法
コレステロールの治療では食事の治療がとても大切です。具体的には
- 脂質の摂取バランスを整える(不飽和脂肪酸を増やす)
- 魚・野菜・食物繊維を多く摂る(コレステロールの吸収を抑える)
- 糖質・アルコールを控える(中性脂肪の上昇を防ぐ)
- 適切なカロリー摂取(肥満を防ぐ)
などです。初めに指摘された場合にはまずは食事療法など生活習慣の改善を行います。内容については詳しくはこちらに説明しています。

運動療法
また、食事治療だけでなく運動療法も食事療法と並んで重要な治療です。運動により動脈硬化性疾患の予防・治療効果があり、HDL-Cを増やし、TGを減らします。また、ストレス解消や骨密度上昇など様々なメリットがあります。
運動の目安は下記の通りです。
- 有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳など息が少しはずむくらいの運動)
- 1日30分以上の運動を最低週3回以上行う(できれば毎日)
毎日は難しくとも週150分以上を目標にウォーキングなどを行うと良いでしょう。
また、スクワットや腕立て伏せ、腹筋運動などのレジスタンス運動も有用です。
薬物療法(必要な場合)
生活習慣の改善でも改善を認めない方は薬物での治療を行います。
薬物療法の開始に当たってはLDLコレステロールの数値や年齢、性別、リスクが高いかどうかで必要性や目標値の評価を行います。
まず心筋梗塞や狭心症など冠動脈疾患の既往やアテローム性の脳梗塞の既往がある場合はすぐさま治療が必要かつ、治療の基準に関してもかなり厳格(LDLコレステロール<70or<100mg/dL以下)です。
また、下記の一次予防の高リスク病態がある場合はLDLコレステロールは120mg/dL以下(100mg/d L以下も考慮)が目標です。
糖尿病
慢性腎臓病(CKD)
末梢動脈疾患(PAD)
そのほか男性、高齢、喫煙、高血圧があると、リスクが高まり治療の必要性が上がります。リスクが低かったとしても180以上は治療を考慮します。
治療に使用する内服としては代表的なものは下記があります。
- スタチン系薬剤(LDLコレステロールを下げる)
- フィブラート系薬剤(中性脂肪を下げる)
- 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
- 多価不飽和脂肪酸
また、TGが500mg/dL以上の場合には、急性膵炎の発症リスクが高いため、薬物治療が必要となります。
まとめ
脂質異常症は自覚症状がほとんどなく、知らないうちに進行し動脈硬化を引き起こす病気です。早期発見と適切な治療により、心筋梗塞や脳卒中のリスクを大きく減らせます。
定期的な健康診断を受け、食事や運動を意識した生活を心がけましょう。
【注意】 本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療の代わりとなるものではありません。必ず医師の診察を受け、適切な治療を受けることをおすすめします。