はじめに
「ペットボトル症候群」という言葉を耳にしたことはありますか?これは若年層を中心に、糖分を多く含んだ清涼飲料水を大量に摂取することによって、血糖値が異常に高くなる状態を指します。
ジュースにより水分補給をすることでより喉が渇いてしまいさらに血糖値が上がっていく病気です。
医学的には「清涼飲料水ケトーシス」または「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれ、糖尿病の重篤な合併症のひとつです。自覚症状が乏しいことも多く、気づいたときには入院が必要になることもあります。
本記事では、そのメカニズムや予防法について、わかりやすく解説します。
ペットボトル症候群はなぜ起こる?
糖分の多い飲み物の過剰摂取が引き金に
多くの市販の清涼飲料水(スポーツドリンク、炭酸飲料、果汁入り飲料など)には、500mlあたり30〜60gの糖分が含まれています。これは角砂糖で言うと8〜15個分に相当します。
そのため、それらを飲むとのどが渇いてごくごく飲んでしまうと、気づかないうちに1日で100g以上の糖を摂取してしまうこともあります。
この過剰に摂取した糖が高血糖の原因となります。
インスリンの作用が間に合わない
糖尿病がまだ診断されていない方や、血糖コントロールがうまくいっていない方では、血糖値が急激に上がったときに、それをしっかりと下げるほどにはホルモン(インスリン)がうまく働きません。
その結果、血糖値が異常に高くなり(高血糖)、エネルギー不足になった体は脂肪を分解しようとします。その際に産生される「ケトン体」という物質が体にたまり、体が酸性に傾く「ケトアシドーシス」という状態になります。
この状態が「清涼飲料水ケトーシス」、いわゆるペットボトル症候群です。
ペットボトル症候群はどんな人がなりやすい?
ペットボトル症候群はどんな方でもなりえますが、特にリスクが高い方は下記のような方です。
リスクが高いのはこんな方
- のどの渇きが強く、スポーツドリンクなどを常飲している人
- やせ型で、糖尿病を指摘されたことがない人
- 最近、急に体重が減ったと感じている人
特にインスリンがうまく分泌できない1型糖尿病では、発症初期にこの症候群として現れることがあり、緊急入院のきっかけとなることがあります【Kishimoto M. et al., 2006, DOI:10.1007/s00592-006-0206-3】。
ペットボトル症候群をおこしたときの症状は?
ペットボトル症候群を起こしたときはどんな症状がでるのでしょうか?また、どんなサインに注意すべきなのでしょうか。それは
- 強い口渇(とにかく水分が欲しくなる)
- 多飲(たくさん飲んでも渇きがおさまらない)
- 多尿(トイレが近くなる)
- 倦怠感(だるさ)
- 体重減少
- 吐き気・嘔吐
- 意識がもうろうとする(重症時)
などです。初期は「だるい」「のどが渇く」だけということもあり「脱水かな?夏バテかな?」と思っているうちに、重症化して意識障害(意識を失うこと)を起こすこともあります。特に、糖分の入った飲料ばかり飲んでいる人でこうした症状があれば要注意です。
どうやって診断されるの?(診断方法)
「ペットボトル症候群」はどのようにして診断されるのでしょうか?
血液検査と尿検査が重要で病院では、以下のような検査で診断されます。
- 血糖値の測定(300mg/dL以上になることが多い)
- 尿中ケトン体の有無
- 血液pHの測定(アシドーシスが疑われる場合)
- HbA1c(過去1〜2か月の血糖コントロールの指標)
それらの検査と問診や診察を組み合わせて診断を行います。
治療法は?どのように回復するの?(治療方法)
血糖値が異常に高い状態の場合は、入院での治療が必要となる場合があります。なぜなら異常な高血糖は極度の脱水など全身に大きな影響をきたしたり、それだけで意識を失ってしまうこともあるからです。
重度のケトアシドーシスが起きている場合は、入院が必要で、具体的には以下のような治療が行われます。
- 点滴による水分補給
- インスリン投与
- 電解質の補正
- 原因となった糖分摂取の中止
症状が軽ければ外来で対応可能なこともありますが、血糖値が非常に高い場合は命に関わる病気であるため入院が必要になります。
どうすれば予防できる?
もっとも大切なのは、日常的に糖分の多い飲料を常飲しないことです。清涼飲料水の「習慣化」に注意が必要です。
のどが渇いたときは、まず「水」や「お茶」を選びましょう。スポーツドリンクや炭酸飲料、果汁入り飲料は「ときどき」程度にとどめるのが理想です。
糖尿病の早期発見も大切
とくにやせ型で多飲・多尿・体重減少などの症状がある場合、隠れた糖尿病がある可能性があります。健康診断や血液検査で早めに確認することが、予防にもつながります。また、初期症状のうちに気づいておくことも重要です。

まとめ
ペットボトル症候群は、糖分を多く含む清涼飲料水を日常的に摂取している方に起こる、非常に危険な代謝異常です。特に若い世代で気づかれにくいことが多く、重症化すると命にかかわる可能性もあります。
清涼飲料水は「水分補給」ではなく「嗜好品」として適切に付き合いましょう。
のどが渇いたときは、まず水や麦茶などお茶で行うことが大切です。
もし、「最近のどがやたら渇く」「体重が急に減ってきた」などの症状があれば、お気軽にみどりのふきたクリニックにご相談ください。
参考文献
- Kishimoto, M., Noda, M., & Kamura, Y. (2006). Soft drink ketoacidosis: A report of two cases and review of the literature. Diabetology International,
- 小児科学雑誌. 「1型糖尿病の初発例としての清涼飲料水ケトーシス」. 日小児内分泌会誌, 2019年.