風邪を引いた後に咳だけが長く続く。患者さんが最もよく相談される症状のひとつです。医学的にはこれを 感冒後咳嗽(post-infectious cough) と呼びます。
多くは自然に改善するものですが、長く続くと日常生活に支障が出たり、他の病気と区別が必要になることもあります。
感冒後咳嗽とは?
感冒後咳嗽とは名前の通り感冒(風邪)後(のあとの)咳嗽(咳)です。
風邪が治ったあとに残る咳
感冒後咳嗽とは、風邪やウイルス感染のあとに 3〜8 週間ほど続く咳のことを指します。発熱やのどの痛みなどの風邪症状はよくなっているのに、咳だけが続く状態です。
この症状は比較的起こる割に、さまざまな病気の可能性もあるため、確定で診断がしづらい状態です。
また、臨床研究では、ウイルス感染後に咳が 3週間以上続く人は全体の 10%前後と報告されており、比較的多い症状でもあります。
なぜ咳が残るのか?
ウイルス感染のあと、のど(気道)の粘膜が過敏になり、
- 普段なら咳が出ない刺激
- 冷たい空気
- ちょっとした会話
- 運動
- 乾燥
こういった刺激に反応して咳が出てしまいます。これを 気道過敏性の亢進(こうしん) と呼びます。発症の仕組みは論文でも確認されており、咳受容体の反応が高まることが理由とされています。
感冒後咳嗽の咳はどれくらい続く?
多くは 3〜8 週間以内に改善する
感冒後咳嗽であれば自然に改善を認めていきます。その期間は3週間から1ヶ月程度が多いです。
また、徐々に症状が軽くなっていくのも特徴です。
どんな症状が多い?
感冒後咳嗽では下記のような症状が多いです。
- 会話をすると咳き込む
- 無意識に「咳払い」が増える
- 透明〜白っぽい少量の痰が出ることがある
高熱が出る、黄色や緑色の痰が多量に出る、息苦しさが強いなどは、肺炎や気管支炎などの、風邪の治りかけではない病気も疑われるため、レントゲンなどの検査を行う場合もあります。
感冒後咳嗽は放置しても良い?
感冒後咳嗽の多くは 数週間〜2ヶ月ほどで自然に良くなることが報告されています。しかし、咳が長引くことで、
- 睡眠の質が落ちる
- 肋骨が痛くなる
- 仕事・家事に支障が出る
こうした生活の困りごとが続くケースがあり、症状が辛いようなら咳止めなどで改善があるか?を評価します。
また、似た症状を呈する他の病気(咳喘息、アレルギー、胃食道逆流症など)との区別も必要であり、症状がひどい場合は自分では判断せず受診も検討してください。
感冒後咳嗽と似ている病気
咳が長引く病気は実はいろいろあります。これらは慢性咳嗽で8週間異常続く症状で疑いますが、初期では感冒後咳嗽と鑑別が必要となります。慢性的に咳が続く場合はレントゲンを考慮します。
咳喘息
気管支が敏感になり咳が続きます。喘息のような喘鳴(ゼーゼー)がないことが特徴です。
特に夜寝る時に多く、寝られないくらいの咳が特徴です。また、冷たい空気にふれると増悪したり、季節の変わり目に症状がひどくなるとされています。
アレルギー性鼻炎・後鼻漏(こうびろう)
鼻水がのどに回り、咳の原因になります。鼻水がひどく、寝ている間に垂れ込みがある場合などがこれが疑われます。
鼻が詰まる、鼻水が多いなどで疑います。
胃食道逆流症(GERD)
逆流した胃酸で咳受容体が刺激されることで咳が起こります。胃酸の逆流のような症状(呑酸)を感じる方もいれば、咳や咽頭の違和感のみの患者さんもいるため、内服で評価してみるケースもあります。
副鼻腔炎(蓄膿症)
ねばい後鼻漏が続くケースなどであります。とくに頭痛や黄色鼻汁との合併では考慮します。
COPDや肺がんなど
COPDや肺がんなど肺自体に病気がある場合は慢性的な咳の原因となります。肺がんの場合は血痰などの症状がある場合もあります。その場合はレントゲンにて精査を行います。
そのほか、薬剤が原因だったり、間質性肺炎という特殊の肺炎、結核などの感染症もあります。また、心不全など心臓に問題がある場合も咳症状で始まることもあり、息が苦しいなどの症状がある場合は注意が必要です。
どんな治療がある?
まずは「気道の過敏性を落ち着かせる」ことが中心です。感冒後咳嗽には、原因ウイルスに対する治療薬はありません。代わりに、過敏になった気道を落ち着かせる治療を行います。
よく使われる治療は?
- 気道を広げる吸入薬
- 過敏性を抑える吸入ステロイド
- 鎮咳薬(症状に応じて)
- 去痰薬・漢方薬(麦門冬湯など、ガイドラインで一定の根拠あり)
漢方薬の効果については臨床試験があり、咳の改善に寄与する可能性が示唆されています。また抗生物質は基本的に不要です。
感冒後咳嗽は「細菌」ではなく ウイルスの後遺的な反応のため、抗生物質が効かないことは多くの研究で確認されています。そのため、症状がつらいからといってむやみに抗生剤を飲んでも改善は認めないです。
受診を検討した方がよい場合
ただ、下記のような症状がある場合は受診もけんとうしましょう。
- 咳が 3〜4 週間以上続く
- 息苦しさが強い
- 発熱が続く
- 夜中に咳き込み眠れない
- 血痰が出る
- 胸痛がある、あしがむくむ
特に 8週間以上 続く場合は慢性咳嗽となり、咳喘息・副鼻腔炎・逆流症などの評価が必要であり、受診を検討すると良いでしょう。
まとめ
感冒後咳嗽は風邪の後に咳だけが続く病気です。特徴としては
- 感冒後咳嗽は「風邪の後に残る咳」で 3〜8 週間続くことがある。
- 多くは自然に改善するが、生活に支障が出る場合もある。
- 咳が長引くときは、咳喘息や後鼻漏、逆流症など他の病気と区別が必要。
- 8週間以上続く咳は慢性咳嗽として評価が必要。
- 抗生物質は通常不要
みどりのふきたクリニックでは、風邪の症状の方も対応しております。その場合は発熱外来を予約いただければと思います。

咳が続いてつらい場合は、どうぞ早めにご相談ください。
