はじめに
「ただのいびきと思っていたら、実は心臓病のリスクだった」そんな病気があります。
いびきは迷惑ではありますが、そこまで重篤に考えない方もいらっしゃると思います。しかし、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、呼吸が止まることで睡眠の質を根本から破壊し、全身の疾患に波及する“全身病”ともいえます。
ここでは、そんな睡眠時無呼吸症候群について解説していきます。
睡眠時無呼吸症候群とは何が起きているのか?
睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸があります。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の病態
閉塞性睡眠時無呼吸は下記のような原因によりおこります。
体の構造による影響
舌根沈下、口蓋垂の肥大、扁桃肥大などにより咽頭気道が閉塞しています。また、睡眠中は筋緊張が低下しやすいため、構造的な狭さが問題化しやすいため、入院時に問題となります。
生活習慣などによる影響
肥満やアルコール摂取により、咽頭周囲筋の緊張低下や脂肪沈着が気道狭窄を悪化をおこします。これにより気道をふさいでいびきや呼吸停止の原因となります。
病態のサイクル
閉塞 → 低酸素血症・覚醒反応 → 交感神経亢進 → 血圧上昇 → 再び睡眠 → 再閉塞…
という無限ループが一晩中続きます。これにより、熟眠感がなかったり、体への負担が強くかかってしまいます。
一般的な睡眠時無呼吸症候群はこれらが原因です。
中枢性睡眠時無呼吸(CSA)の病態
また別の原因として脳幹部の呼吸中枢(延髄)からの信号が不安定になることで、呼吸そのものが停止するものがあります。心不全患者に多く、Cheyne-Stokes呼吸と呼ばれる周期性呼吸を呈します。これらは別の病態です。
診断:何をもって“無呼吸”と判断するのか?
AHI(Apnea-Hypopnea Index)というスコアを用いて診断します。
AIHは簡易検査またはPSGにて測定し、無呼吸・低呼吸の回数を1時間あたりで表したものです。軽症:5~15、中等症:15~30、重症:30以上とされています。
AHIだけでは日中の眠気やQOL低下を説明しきれないケースもあります。ODI(Oxygen Desaturation Index)やT90(酸素飽和度90%未満の時間割合)など、別指標との組み合わせが注目されています。
診断ツールの選択:簡易検査とPSGの使い分け
睡眠時無呼吸症候群の診断は簡易検査といわれる方法とPSG(Polysomnography)という方法があります。当院では簡易検査のみ行うことができます。
簡易検査(在宅睡眠呼吸検査)
簡易検査は機材を貸し出すことで行うことができ、自宅で比較的簡便に検査ができることが利点です。
- 鼻口呼吸、酸素飽和度、体位、いびきなどを1〜2チャンネルで記録。
- 負担が少なく、保険適用下で施行可能。
ただし中枢性の検出や微細覚醒(arousal)の評価は困難であり、数値次第ではPSGをおこない確定します。
PSG(Polysomnography)
PSGは検査入院をしてさまざまなモニターをつけて正確に睡眠の状態を確認して診断する方法です。正確に測定できる利点はあるものの、検査の手間や費用がデメリットです。
- 脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸運動など多項目を同時記録。
- 精度は高いが、費用・手間・予約待ちがネック。
睡眠時無呼吸症候群の治療法について
睡眠時無呼吸症候群の治療としてはCPAPという器具をつけての治療が効果が高いことが報告されています。
CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)
治療をおこなうことでAHI(無呼吸のスコア)の劇的改善、血圧低下、心不全や脳卒中リスクの低下が報告されています。効果が高い一方患者さんがつけ続けることが難しくなってしまうという問題があります。
主な理由としてはマスクの違和感、騒音、乾燥感があり、最新ではオートCPAPや加湿機能、マスク多様化で改善傾向をおこなっています。
口腔内装置(OA:Oral Appliance)
軽〜中等症に有効です。下顎を前方に移動させて気道確保する方法でマウスピースを作って行います。歯科的適応の制限があり(歯の状態・顎関節)ます。
CPAPがうまくできない方の代わりの方法として行われる場合があります。
外科的治療
- 扁桃摘出、鼻中隔矯正術、UPPP(口蓋垂・口蓋の切除)などを行います。
- 根治的可能性あるも、再発や効果不確実性あります。
- 慎重な適応判断と術後評価が必要です
これらの治療の中から選択することになりますが、重症な方などは連携している専門の医療機関にご紹介して精査や治療を行ってもらうこともあります。
SASと併存疾患:それぞれの臨床的な関連
睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病などとの関連があるとされています。
高血圧と関連する
睡眠時無呼吸症候群は高血圧の隠れた原因です。特に非夜間型高血圧(non-dipper)になりやすく、夜間の交感神経亢進が原因です。
早朝高血圧や降圧不十分例ではSASを疑う視点が重要が重要です。
糖尿病とインスリン抵抗性に関連する
SASは内臓脂肪型肥満と重なりやすく、HOMA-IR上昇も伴いやすいとの報告もあります。
無呼吸の治療であるCPAP使用によりインスリン抵抗性が改善した報告も複数あります。そのため、糖尿病との関連も示唆されます。
心不全(特にHFpEF)と関連する
中枢性が関与することが多く、従来のCPAPでは逆効果の可能性も示唆されています。Adaptive Servo-Ventilation(ASV)は心不全例に用いられるが、多くの方に使われるものではありません。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、「眠れない病気」ではなく「呼吸が止まることで命が縮む病気」です。しかし、的確な診断と個別性を考慮した治療によって、QOLも予後も改善可能な疾患です。
当院では、在宅検査による初期スクリーニングから、必要に応じた専門医との連携治療まで、一人ひとりの症状と背景に寄り添った対応を心がけています。