はじめに
年齢を重ねるにつれ、少しずつ歩くのが遅くなったり、階段がつらくなったりすることはありませんか?
その背景には、サルコペニア(sarcopenia)と呼ばれる筋肉量と筋力の減少が関係しているかもしれません。サルコペニアは骨粗鬆症と同様に高齢者で多く認めます。
また、これは単なる「老化現象」とは異なり、放置すれば転倒や骨折、介護の必要性を高める重大な疾患とされています。
本記事では、サルコペニアの定義や原因、診断、治療、予防法について、最新の医学的知見を踏まえながら詳しく解説します。
サルコペニアとは何か?
サルコペニアは、ギリシャ語の「sarx(肉体)」と「penia(喪失)」を語源とし、加齢や疾患に伴って筋肉量と筋力が低下する病態を指します。
サルコペニアは筋力が低下していくことで多くの機能障害を起こし、転倒や骨折、入院期間の延長、術後合併症、再入院などさまざまな事象のリスクをあげます。
健康リスクと日常生活への影響
サルコペニアは、以下のような多くの問題を引き起こします。
- 転倒・骨折のリスク増加
- 歩行能力や移動の制限
- 生活の自立度の低下
- 入院や介護施設入所の可能性増加
- 生命予後の悪化
のような、健康に生活することへ大きな悪影響があります。特に高齢者では、サルコペニアをきっかけに寝たきりになるリスクが高まるため、早期の発見と介入が重要です。
サルコペニアの主な要因
サルコペニアの原因は複合的です。
- 加齢:筋肉の合成能力が低下し、分解が進みやすくなる
- 運動不足:特に抵抗運動の不足
- 栄養不足:たんぱく質やビタミンDの不足
- 慢性疾患:糖尿病、慢性心不全、がん、慢性腎臓病など
- 炎症やホルモン変化:炎症性サイトカインや性ホルモンの減少
サルコペニアの診断方法
サルコペニアの診断方法は問診や診察に加えて下記のような測定も行います。
サルコペニアの診断基準
2019年に欧州サルコペニア作業部会(EWGSOP2)は、以下の3要素をもとにサルコペニアを診断すると提案しています。
- 筋力の低下(例:握力の低下)
- 筋肉量の減少(DXAやBIAによる評価)
- 身体機能の低下(歩行速度の低下など)
これらのうち、まず筋力の低下が確認され、さらに筋肉量の減少がある場合に「サルコペニア」と診断されます。
そのため、まず簡単に調べる方法としては握力、握力計がなければ5回椅子立ち上がりテスト(腕を組んだまま、できるだけ椅子から起立と着座を5回繰り返しその時間を測る)があります。
握力・歩行速度・筋肉量の測定
- 握力測定:男性27kg未満、女性16kg未満は低下とされる
- 歩行速度:0.8m/秒未満は身体機能低下
- 筋肉量:BIA法(体組成計)やDXA法で評価
などがあります。これらからある程度推測していきます。
サルコペニアの治療と予防
サルコペニアの治療と予防には運動療法と栄養療法が大切です。すなわち筋力を維持するトレーニングと、しっかりとしたタンパクなどの栄養を摂ることです。具体的には
運動療法
最も効果的なのは、有酸素運動とレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の組み合わせです。特にレジスタンストレーニングは週2回以上、下肢を中心にした運動を継続することで、筋肉量と筋力の維持・改善が可能となり、転倒や体力低下を防ぎます。
介護申請をしている場合には、通所リハビリテーションでのリハビリも考慮されます。
栄養療法
サルコペニアを防ぐためには栄養療法も重要です。特にタンパク質は意識して摂取しないと不足しがちです。
- たんぱく質:体重1kgあたり1g/日の摂取を推奨
- ビタミンD:骨や筋肉の機能維持に不可欠
- ロイシン:分岐鎖アミノ酸(BCAA)の一種で、筋タンパク合成を促進
これらを達成するために、肉、魚、乳製品、豆腐や納豆(ワーファリン内服中の人以外)を積極的に摂取することが大切です。
薬物療法(研究段階)
現時点では明確な治療薬はなく、いくつかの候補物質(ミオスタチン阻害薬など)が研究中です。今後の治療に期待されます。
まとめ
サルコペニアは「年のせい」と軽視されがちですが、実は多くの病気や生活機能の低下と密接に関わっています。
日常生活の中での「ちょっとした衰え」に気づいたら、それは体からのサインかもしれません。早めの対策によって、健康寿命を延ばすことができます。
運動をおこなったり、適切に栄養を取ることがサルコペニアをふせぐことにつながります。