過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、大腸に炎症や潰瘍などの異常がないにもかかわらず、慢性的な腹痛やお腹の不調(下痢・便秘・膨満感など)を引き起こす病気です。
ストレスや食事の影響を受けやすく、生活の質(QOL)に大きく影響することがあります。いのちにかかわる病気ではない一方患者さんの生活が大変になり、困っている方が多い疾患です。
過敏性腸症候群の主な症状
過敏性腸炎は下痢や便秘を繰り返す病気ですが、下痢が多い人、便秘が多い人など様々です。
そのため症状によって、大きく以下の4つのタイプに分類されます。
✅ 下痢型(IBS-D):突発的な下痢が頻繁に起こる
✅ 便秘型(IBS-C):便が硬くなり、排便が困難になる
✅ 混合型(IBS-M):下痢と便秘を繰り返す
✅ 分類不能型(IBS-U):上記のいずれにも明確に分類されない
また、下痢や便秘以外にもさまざまなおなかの不調があらわれます。具体的には下記のような症状です。
- 腹痛・腹部の不快感(排便後に軽減することが多い)
- お腹が張る(膨満感)
- 残便感がある
- ガスがたまりやすい(おならが多い)
過敏性腸症候群の原因
IBSの明確な原因はまだ解明されていませんが、以下の要因が関与しているといわれています。
- 腸の運動異常(腸の動きが過剰または低下する)
- 腸の知覚過敏(通常より腸が痛みに敏感になる)
- 自律神経の乱れ(ストレスや生活習慣が影響)
- 腸内細菌のバランスの変化(腸内環境の乱れ)
- 心理的要因(ストレス、不安、うつなど)
とくにストレスとの関連はいわれており、ストレスがおおくなると症状が悪化するなどの特徴があります。
過敏性腸症候群(IBS)の診断と治療
IBSは、まず他の腸の病気(炎症性腸疾患や大腸がんなど)との区別が必要です。
なぜならIBSは腸自体に異常がないことが診断に重要だからです。過敏性腸症候群だとおもっていたら大腸癌だった…なんてことは避けなければなりません。
過敏性腸症候群の診断基準は?
診断基準としてはRomeIV基準があります。
過去3カ月間、少なくとも週に1日以上、腹痛が繰り返し起こり、下記の2項目以上がある。
1. 症状と排便が関連している。
2. 排便頻度の変化で始まる。
3. 便形状(外観)の変化で始まる。
6カ月以上前から症状があり、最近3カ月間は上記の基準を満たしている。
また、症状がある場合は、採血、腹部レントゲンや便潜血の検査を行い、大腸の異常がないかを調べます。同時に大腸カメラについても検討します。
大腸カメラの検討ステップ
発熱、関節痛、血便、6カ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、その他異常な身体所見がないか?
→ある場合は大腸カメラや採血で精査する。
50歳以上での発症または患者、大腸器質的疾患の既往歴または家族歴がないか?
→ある場合は大腸カメラを検討する。
採血検査で炎症や貧血があったら大腸カメラを考慮します。
過敏性腸症候群の治療方法
IBSはストレスや生活習慣の関連もあるため、治療は生活習慣の改善・薬物療法を組み合わせて行います。
薬物療法について
薬物治療では、腸内環境を整えるプロバイオティクスや運動を調整する薬剤などを併用して症状に合わせて治療します。
- 腸内環境を整える薬(プロバイオティクス)
- 消化管運動を調整する薬(便秘型・下痢型に応じた処方)
- IBS治療薬(5HT3拮抗薬など)
- 便秘の治療薬(粘膜上皮機能変容薬など)
- 抗不安薬・抗うつ薬(ストレスが強い場合に使用)
生活習慣の改善
生活習慣ではストレスをできるだけ軽減し、暴飲暴食などを避ける。運動をするなどが重要となります。
また、脂質、カフェイン、香辛料などはさける食物繊維をとると良いでしょう。
- 食物繊維の摂取(便秘型には有効だが、下痢型の人は控えめに)
- 規則正しい食事(暴飲暴食を避け、消化に良いものを選ぶ)
- FODMAP食の調整(発酵しやすい糖類を含む食品を減らす)
- 適度な運動(ストレス解消と腸の動きを整える)
- 十分な睡眠(自律神経のバランスを保つ)
おなかの不調と正しくつきあう
IBSは命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな影響を与えることがあります。治療を続けながら、自分に合った対処法を見つけ、無理なく生活することが大切です。
- 食事や生活習慣を見直し、症状の悪化を防ぐ
- ストレス管理を意識し、リラックスする時間を作る
- 症状が辛いときは我慢せず医師に相談する
IBSのような症状で悩んでいる方は、早めに医療機関を受診し、しっかりと診断をうけて、適切な治療を受けることをおすすめします。
参考文献:
過敏性腸症候群診療ガイドライン2020など