機能性ディスペプシア(FD)
機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)は、胃の不快感や痛みがあるにもかかわらず、検査をしても明らかな異常が見つからない慢性的な消化不良の状態を指します。
患者さんは非常に辛い症状があるのに検査で何も異常がわからないという患者さんにとっては辛い疾患です。消化管の器質的な異常ではなく、消化管の機能異常によって起こるため「機能性」と呼ばれます。
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。
- 胃の運動機能異常(胃の動きが低下し、食べ物がスムーズに排出されない)
- 胃酸過多(胃酸の分泌が多すぎることで胃の粘膜が刺激される)
- 知覚過敏(胃の刺激に対して通常よりも敏感に反応する)
- ストレスや自律神経の乱れ(精神的ストレスが胃の働きを乱す)
- 食生活の乱れ(脂っこい食事や刺激物の摂取が影響する)
ストレスの多い現代では、多くの方が患っていると言われており、患者数は日本人の約10人に1人、数千万人にも及ぶのではないかと言われています。
機能性ディスペプシアの主な症状
機能性ディスペプシアの症状は個人によって異なりますが、主に以下の2つのタイプに分けられます。
食後愁訴症候群(PDS:Postprandial Distress Syndrome)
- 食後の胃もたれや膨満感
- 少量の食事でもすぐに満腹になる(早期満腹感)
- 胃の膨らみや圧迫感が続く
心窩部痛症候群(EPS:Epigastric Pain Syndrome)
- みぞおちの痛みや灼熱感(心窩部痛、心窩部灼熱感)
- 空腹時や食後に胃がチクチク痛む
- 胃の不快感が繰り返し現れる
症状は慢性的に続くことが多く、ストレスや食事の影響で悪化することがあります。
機能性ディスペプシアの診断方法
機能性ディスペプシアは、胃カメラ(内視鏡検査)や腹部超音波検査などで胃潰瘍や逆流性食道炎、胆嚢炎などの重篤な異常が見つからない場合に診断されます。そのため診断のためには
- 心窩部痛、心窩部灼熱感、食後の胃もたれ、早期飽満感のうち、1つ以上の症状があること
- 6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間継続している
- 明らかな器質的疾患(胃潰瘍や胃がんなど)がない
- 胃の不快感や痛みが日常生活に影響を及ぼしている
を満たす必要があります。すなわち機能性ディスペプシアは初めから診断する疾患ではなく除外診断です。(他の可能性を否定した後に診断する病気)
機能性ディスペプシアの治療方法
治療は主に薬物療法と生活習慣の改善によって行われます。
薬物療法
- 胃の運動を改善する薬(消化管運動機能改善薬)
- 胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー)
- 漢方薬(六君子湯など)
- アコチアミド
- 抗不安薬や抗うつ薬(ストレスが関与する場合に使用)
機能性ディスペプシアは、ピロリ菌を除菌すると症状が改善することがあるため、まずはピロリ菌の検査をして感染し、ピロリ菌がいた場合には除菌治療を行います。
また、2013年6月に世界で初めて機能性ディスペプシアへの適応をもつ薬剤として、日本で開発されたアコチアミドを使用することもあります。
また、漢方薬の六君子湯も有効で、患者さんの症状に合わせて合う薬を探していきます。
生活習慣の改善
- 規則正しい食生活を心がける(1日3食、食べすぎを避ける)
- 脂っこいものや刺激物(辛いもの、アルコール、カフェイン)を控える
- ストレスをためないようにリラックスする(適度な運動や趣味を楽しむ)
- 十分な睡眠をとる(自律神経を整えるため)
また、精神的なストレスや消化管運動異常、知覚過敏等が原因の一つと考えられているため、そういった生活習慣の改善は重要です。
機能性ディスペプシアと上手に付き合うために
機能性ディスペプシアは命に関わる病気ではありませんが、日常生活に影響を及ぼしやすいため、適切な治療と生活習慣の見直しが重要です。
- 無理に食べすぎないようにする
- 症状が続く場合は医師に相談する
- ストレスを減らし、リラックスする時間を持つ
- バランスの良い食事と適度な運動を心がける
機能性ディスペプシアかもしれないという症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、しっかり検査を行い自分に合った治療法を見つけることが大切だと考えます。