はじめに:大腸カメラの目的と重要性
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)は、大腸の中を直接観察し、ポリープやがん、炎症などの異常を早期に発見するための検査です。特に大腸がんは早期発見すれば治癒が可能な病気であり、大腸カメラによる定期的なチェックが命を救うこともある重要な検査です。
しかし、検査は準備が必要だったりと体への負担もあるため、毎年のようにおこなうのは現実的ではありません。では「どれくらいの間隔で検査を受けるべきか?」という疑問に対しては、年齢や既往歴、リスク要因によって答えが変わります。
以下では、状況別にその適切な頻度について詳しくご説明します。
一般的な方の場合:異常がなければ大腸カメラは5〜10年に1回が目安
大腸がんのスクリーニングに関しては、大腸カメラと便潜血の検査を組み合わせて適切なフォローを行うことが大切です。
大腸カメラは直接大腸を見る検査のため精度が高い検査です。一方で、下剤を飲んだりする大変さや直接カメラを入れるため、検査に対するリスクがあります。
一包便潜血(大腸がん検診)は、精度はおちるものの、便を出すだけで体の負担もほとんどなく簡単に受けられることがメリットです。
そのため、症状がない方はまずは便潜血をうけて、陽性になったら大腸カメラを行う方針で良いと考えます。
症状やリスクがない場合の基本的な指針
特に症状がなく、ポリープやがんの既往がない方は、50歳を目安に最初の大腸カメラを受けることが推奨されます。しかし、全く症状がない場合は検診での施行となり、その後、異常がなければ5〜10年に1回程度が一般的な目安とされています。
この間隔の根拠は、腺腫性ポリープががんに進展するのに通常10年程度かかるとされているためです。よって、一定の間隔での検査が、がんの発症を未然に防ぐことにつながります。
ポリープを指摘された方:数年後の経過観察が必要
続いてはポリープが検査で指摘された方の場合です。ポリープを切除された場合は数年後に再度大腸カメラをうけることが推奨されています。また、その頻度はあったポリープの個数や量によります。
再検査の時期はポリープの数や種類によって変わる
一度でも腺腫性ポリープが見つかった方は、がんのリスクがやや高くなります。ポリープの大きさ、個数、組織型(腺腫かどうか)によって再検査のタイミングが変わります。具体的には
- 1~2個の小さな腺腫性ポリープ:3〜5年で再検査
- 3個以上のポリープ、または大きなもの(10mm以上):1〜3年で再検査
です。
小さなポリープであれば、翌年の検査は必要なく個数が多くなければ便潜血によるスクリーニングにもどってOKとされています。その場合は便潜血で引っ掛かったら再度検査を行います。また、3〜5年経過したら再検査を検討します。
なぜならポリープができたことがある方はポリープが再発する可能性があるため、内視鏡以外でも便潜血検査などで定期的なフォローアップが非常に重要です【2】。
大腸がんの家族歴がある方:40代から検査を開始することも
家族歴がリスク因子になる理由
大腸がんの家族歴(とくに1親等内に50歳未満で診断された人がいる場合)がある方は、遺伝的なリスクが高いとされています。米国消化器病学会では、「がんと診断された年齢の10年前」または「40歳」からの検査を推奨しています【3】。
このような高リスクの方では、3〜5年ごとの定期的な内視鏡検査が必要です。
症状がある場合は年齢にかかわらずすぐに検査を
次のような症状がある方は、早めの受診を
たとえば下記のような症状がある場合は検査を検討します。
- 血便(とくに赤い血が混じる、便に血がつく)
- 便が細くなる
- 腹痛や下痢・便秘の繰り返し
- 原因不明の体重減少や貧血
これらの症状は、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)などのサインである可能性があります。年齢に関係なく、大腸カメラでの評価が必要です。
「クリーンコロン」の概念:ポリープがない=一時的に安心
一度「きれいな大腸」と確認されれば…
検査でポリープがなかった場合、医師から「クリーンコロン(Clean Colon)」と説明されることがあります。これは、現時点では大腸がきれいでがんや前がん病変がない状態を指し、その後の検査間隔を延ばせる可能性があります。

ただし、この状態も永続的な保証ではありません。生活習慣や加齢によって将来新たなポリープができる可能性もあるため、次回検査のタイミングについては医師と相談しましょう。
日本と海外で異なる検査の方針
最後に海外の大腸カメラの頻度についても触れておきます。
海外(とくに米国)ではスクリーニングが普及
米国では、45歳以上の全ての成人に対し、大腸がんスクリーニングが推奨されています(American Cancer Society, 2021)【4】。その時にポリープがあったかどうか?などにより次回どのような検査を行うかを決めます。
一方、日本では「症状があれば内視鏡」「便潜血で陽性なら内視鏡」という運用が多く、症状のない人のスクリーニング内視鏡は十分に普及していません。
しかし、予防医学の観点からは、早めのスクリーニングが合理的だとする声も増えており、その意味でも便潜血検査をしっかりうけて大腸内視鏡のタイミングを逃さないことが大切です。
医師との相談で最適な検査計画を立てましょう
大腸カメラの適切な頻度は、「一律」ではなく、個人ごとのリスクに応じて調整する必要があります。検診で便潜血が陽性になった、過去にポリープを取った、家族にがんの人がいる、など一つひとつが大切な情報です。
当院では、患者さんのリスクを総合的に評価したうえで、過剰でも不足でもない最適な検査間隔を提案しています。
まとめ:大腸カメラは「定期的に」こそ意味がある
大腸カメラはしっかりとおこなうと大腸がんで命に関わる可能性がかなり減らすことができる検査です。しかし、リスクや経済的な負担もあるため、過剰になっては意味がありません。
症状があった場合やポリープを切除した場合は適切なタイミングを逃さずにしっかり検査をうけつつ、症状がない場合は、検診としての便潜血検査も併用しておこなうと良いでしょう。
- 健康な人でも50歳から5〜10年に1回が目安(症状がないと検診となる)
- ポリープ歴のある人は大きさや個数によって次回の検査が変わる
- 便潜血検査は毎年受けましょう。
- 家族歴や症状のある人はもっと早く、頻回に行う場合があり
- どの間隔が自分に適切か、医師と相談を
引用文献・参考資料
- Lieberman DA, et al. “Guidelines for colonoscopy surveillance after screening and polypectomy.” Gastroenterology. 2012;143(3):844-857. DOI: 10.1053/j.gastro.2012.06.001
- Nishihara R, et al. “Long-Term Colorectal-Cancer Incidence and Mortality After Lower Endoscopy.” N Engl J Med. 2013;369:1095–1105. DOI: 10.1056/NEJMoa1301969
- Rex DK, et al. “Colorectal cancer screening: Recommendations for physicians and patients from the U.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer.” Am J Gastroenterol. 2017;112(7):1016-1030. DOI: 10.1038/ajg.2017.174
- American Cancer Society. “Colorectal Cancer Screening Guidelines.” Updated May 2021. https://www.cancer.org
- https://gastro.org/clinical-guidance/follow-up-after-colonoscopy-and-polypectomy-a-consensus-update-by-the-u-s-multi-society-task-force-on-colorectal-cancer/?utm_