クリニックで採血してるから、大きな病気もすぐに見つかる?という誤解

採血=全身の異常が必ずわかるわけではない

日常的な健康診断やクリニックでの血液検査を通じて、患者さんからよく聞かれる言葉があります。

「先生、血液検査は全部やってもらってるから、もし何か病気があれば分かるんですよね?」

この考え方は一見、理にかなっているように思えます。しかし実際には「血液検査をしていれば何でもわかる」というのは大きな誤解です。

私自身も実際に総合病院で勤務していて、進行したがんの診断となった方をみてきました。しかし、そんな人たちもクリニックなどでされた採血で大きな異常は指摘がないことも珍しくはありませんでした。

血液検査は非常に有用な検査ですが、限界もあり、すべての病気を見つけることができるわけではありません。では本記事では、なぜ「採血していれば安心」とは限らないのか、理由について、医師の視点から詳しく解説します。

血液検査が得意とする「異常の種類」

血液検査はとても重要な検査でこの検査でしか、診断できないものを含めて多くの項目を測定できます。たとえば以下のようなものです。

  • 炎症の有無(CRP、白血球数など)
  • 肝臓・腎臓の機能(AST、ALT、クレアチニンなど)
  • 貧血の有無(ヘモグロビン、鉄など)
  • 脂質異常(コレステロール、中性脂肪)
  • 血糖・HbA1cなど糖代謝の状態

それぞれの数字は症状が現れる前に病気を察知することができたりと診察においてはかなり重要な役割があります。

しかしこれらの項目は、「臓器がある程度ダメージを受けているかどうか」を反映する指標です。つまり、すでに症状が進行し、体にある程度の異常が出ていれば検出できることが多いのです。

「初期のがん」や「隠れた異常」は反映されにくい

しかし、すべての病気が採血で見つけることができるわけではありません。進行がんの診断となった方の中でも採血では大きな異常がないという方もいらっしゃいます。

例えば以下のような異常は採血だけでは見つからないことが多いです。

  • 小さな初期のがん(特に大腸がん、胃がん、肺がんなど)
  • 無症状の脳卒中や心筋梗塞のリスク
  • 早期の肝臓病(脂肪肝、肝線維化)
  • 大動脈瘤や心臓弁膜症などの構造的な異常

これらは画像検査(CT、超音波、内視鏡など)や問診・身体診察の併用が必須であり、血液検査単独では見逃されてしまいます。

そのため、症状にあった検査を行い、採血だけではなく追加の検査や診察を行わなければ診断にはつながりません。

血液検査で「異常なし」=「病気なし」ではない理由

正常値に隠れる病気もある

血液検査には「基準値(正常範囲)」がありますが、これは統計的な基準であり、個人の状態を完全に反映するものではありません。

たとえば、腫瘍マーカーをとれば必ずがんが診断できるわけではなく、がんがあっても、腫瘍マーカーが陰性のこともあります。

つまり、「正常」と表示されても、体のどこかに静かに進行している病気が隠れている可能性があるということです。

「定期採血」よりも大切なこと

症状の変化に気づくこと

採血の数値以上に大切なのは、体調の変化に自分自身や医師が気づけることです。

  • 「最近疲れやすい」「体重が急に減った」などの自覚症状
  • 「便の色が黒い」「息切れがひどい」などの身体的変化

これらは、採血よりも早く異常を知らせてくれるサインになることがあります。

診察・画像検査との組み合わせが重要

たとえば当院(みどりのふきたクリニック)では、以下のようなケースでは血液検査に加えて適切な検査を提案しています。

  • 腹部違和感 → 腹部エコー検査
  • 呼吸の違和感 → 胸部レントゲンや心電図
  • 胸の違和感→心エコーや胃カメラ
  • 便通異常 → 大腸カメラや便潜血検査

これにより、血液検査だけでは見逃されるような異常を早期に発見することが可能になります。

まとめ:「採血だけで全部わかる」時代は来ていない

血液検査は大変便利で、私たち医師も日常診療で頻繁に用いています。しかしそれは、全身の病気を完璧にスクリーニングできる万能な検査ではないという前提があってこそです。

「採血して異常がなかったから安心」と思うことは、時に大切なサインを見逃すことにつながります。

不調を感じたときや、年齢的な節目には、「採血だけでなく、診察・画像検査を組み合わせたチェック」が安心につながります。気になる症状があるときは、どうぞお気軽にご相談ください。

引用・参考文献

  • Paul D. et al. Limitations of blood tests in the early detection of cancer. Lancet Oncol. 2020;21(5):e238-e246. DOI: 10.1016/S1470-2045(20)30030-3
  • Chalasani N, et al. The diagnosis and management of nonalcoholic fatty liver disease: Practice guidance. Hepatology. 2018;67(1):328–357. DOI: 10.1002/hep.29367
  • 早期がん検診の現状と課題 – 国立がん研究センターがん情報サービス(https://ganjoho.jp/)

みどりのふきたクリニック

診療科目循環器内科、消化器内科、内科、訪問診療
場所静岡市葵区大岩町4-23 
アクセス静清バイパス唐瀬ICから5分 城北公園の近く
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