はじめに:ピロリ菌の除菌はゴールではありません
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の中にすみつく細菌で、慢性胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんのリスクを高めることが知られています。

除菌治療を受けることで、これらのリスクを下げることができますが、除菌後の生活習慣や食事内容によって、胃の健康状態が大きく変わってくることもわかっています。
そこで今回は、「ピロリ菌の除菌後、食事で気をつけるべきことは?」という疑問にお答えしながら、胃の健康を守るための食生活のポイントをご紹介します。
ピロリ菌除菌後の胃はどんな状態?
ピロリ菌を除菌するとどのようになるのでしょうか。簡単にいうとピロリ菌除菌を行うと、ピロリ菌が胃からいなくなります。しかし、すぐには胃の壁の変化はあらわれません。
胃の中の“遺伝子のスイッチ”も少しずつ回復
これは少し難しい話になりますが、ピロリ菌がいると、胃の細胞の「働き方のスイッチ」が変わってしまうことがあります。これが長く続くと、がんの原因になることがあります。
けれども、除菌することで、こうした“間違ったスイッチ”が少しずつ元に戻るという研究結果も出ています。
除菌しても胃がんリスクはゼロにならない
ピロリ菌の除菌によって胃がんのリスクは下がることが多くの研究で確認されていますが、完全にリスクがなくなるわけではありません。
特に除菌前にすでに粘膜の萎縮や腸上皮化生がある方は、引き続き定期的な(1年~2年に1回)胃カメラ検査が推奨されます。

除菌後の食事で気をつけたいこと
続いては除菌後の食事について気を付けたいことを説明します。除菌しても大きな胃の変化はないためすごく気を付けなければならないということはありません。
胃にやさしい食事を心がける
除菌直後は胃の粘膜が敏感になっていることがあるため、以下のような「胃にやさしい食事」が基本になります。
- 脂っこいものや刺激物を控える
→ 唐辛子、にんにく、揚げ物などは胃を刺激することがあります。 - アルコールやタバコは避ける
→ 粘膜を刺激し、治癒を妨げる可能性があります。 - よく噛んで、ゆっくり食べる
→ 胃への負担を減らし、消化を助けます。
これらを心掛けるようにしましょう。
野菜・果物を積極的に取り入れる
ビタミンCや抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物は、胃の粘膜を守る働きがあると考えられています。
- キャベツ、ブロッコリー、にんじん、トマト
- りんご、バナナ、キウイなど
ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンには抗酸化作用やピロリ菌の抑制作用も報告されており、除菌後の健康維持に役立つ可能性が示唆されています。
塩分は控えめに
塩分の多い食事は胃がんリスクを高める要因とされています。特に、除菌後も胃がんのリスクが残る方にとっては、減塩が重要です。
- 漬物、味噌汁、干物、加工食品などは控えめに
- 調味料を使いすぎない工夫を(レモンや香味野菜で味付け)
プロバイオティクスで腸内環境を整える
除菌治療では抗生物質を使用するため、腸内細菌のバランスが乱れることがあります。ヨーグルトや乳酸菌サプリメントで善玉菌を補うことで、腸内環境を整える助けになります。ただし、「ピロリ菌を再発しないためにヨーグルトを飲む」というのは根拠が弱く、過度な期待は禁物です。
除菌後の経過と胃の健康を守るために
最後の除菌後の胃の健康を守るために注意することをご説明します。
定期的な胃カメラを受けましょう
除菌治療後も、胃がんの早期発見のために定期的な内視鏡検査(胃カメラ)が勧められています。とくに以下のような方は要注意です。
- 除菌前に慢性胃炎や胃潰瘍があった方
- 萎縮性胃炎や腸上皮化生を指摘された方
- 家族に胃がんの方がいる場合
健診センターで健診とともに施行するなどどのような形でもよいので、定期的な胃の検査を除菌後は受けて、胃癌ができたとしても早期で発見することが何よりも大切です。
早期であれば内視鏡での治療(お腹を開けずに治療)も可能となります。
まとめ:ピロリ菌除菌後も食生活を大切に
ピロリ菌の除菌は、胃の健康を守る大きな一歩です。しかし、それで終わりではなく、その後の食生活や生活習慣こそが重要になります。
- 胃にやさしい食事
- 野菜・果物中心の食生活
- 減塩と禁煙・節酒
- 定期的な胃カメラ
これらを心がけることで、ピロリ菌によるダメージを回復し、将来の病気を予防することができます。気になることがあれば、医師に相談してみてください。
参考文献
- Fukase K, Kato M, Kikuchi S, et al.Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial.The Lancet. 2008;372(9636):392–397.
- IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans.A review of human carcinogens: Personal habits and indoor combustions. Volume 100E.IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Lyon, France: International Agency for Research on Cancer; 2012.
- Yanaka A, Zhang S, Tauchi M, Suzuki H, Shibahara T, Matsui H.Daily intake of broccoli sprouts reduces Helicobacter pylori colonization and attenuates gastritis in humans.
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