「特に困っていないのに、薬を飲む必要がありますか?」
「痛くも苦しくもないのに、検査を受ける意味があるのでしょうか?」などと、患者さんに聞かれることもあります。
この疑問は、皆さん一度は持ったことがあるのではないでしょうか?
多くの患者さんは基本的に「つらい」「困る」と感じて初めて医療の必要性を実感します。逆に言えば、症状がなければ、治療や検査は余計なことのように感じられてしまうのも無理はありません。
ただし、医療の世界には症状が出てからでは遅くなるケースもあります。むしろ、内科で日常的に扱う病気の多くは、静かに、気づかれないまま進行していくものです。つまり症状がでていること=ある程度進行している場合も多くあります。
ここでは、症状がないのに治療や検査が勧められる理由についてお話ししてみたいと思います。
症状がないのに治療が必要な理由
まず第一に段階があるということです。多くの病気には症状が出ない時間があります。
多くの方が誤解しやすい点ですが、症状は病気のスタートではありません。多くの場合、症状は体の中で何かが長く進行した結果として、ようやく表に出てきます。
例えば高血圧を例に考えてみます。
血圧が高い状態が続いても、ほとんどの方は何も感じません。たまに頭痛やめまいがある方もいらっしゃいますが、多くの方は何も症状がないまま、何年、時には何十年も経過します。しかし、その間に血管には少しずつ負担がかかり、動脈硬化は静かに進行していきます。そしてある日突然大きな病気にの発症につながるリスクがあると言われています。
そのため、症状が出たとき、それは病気がかなり進んだ段階であることがあります。
症状がない=安全ではない
高血圧や脂質異常症(高コレステロール血症)は、「沈黙の病気」と呼ばれる代表的な疾患です。
なぜなら血圧やコレステロール値が高いだけで、日常生活に支障はほとんどありません。仕事も運動も、普段どおりできます。そのため、なかなか受診や治療に億劫になる気持ちも理解できます。
しかし、これらの病気が問題となるのは、今より将来です。
治療しない場合に起こりうること
高血圧や高コレステロール血症を放置すると、次のような病気のリスクが高まります。
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 脳出血
- 心不全
- 腎機能障害
これらは、いずれも突然発症し、生活を大きく変えてしまう病気です。しかも、発症してから治療を始めても、元の状態に完全に戻らないこともあり、それこそ取り返しがつかないケースもあります。
症状がない段階での治療は、今を楽にするためではなく、将来の大きな病気を防ぐためです。よく診察でも10年後、20年後のために治療を行いましょうと、伝えています。
慢性胃炎と胃カメラ検査の意味
胃の不調は比較的わかりやすい症状が出ることもありますが、慢性胃炎やピロリ菌感染は、必ずしも症状を伴いません。
「胃が痛くないから大丈夫」「胸やけもないから問題ない」
そう思っていても、胃の粘膜では炎症が続いていることがあります。
慢性胃炎、とくにピロリ菌による胃炎は、長期間続くことで胃がんのリスクを高めることが知られています。
慢性胃炎がある方において胃カメラ検査は、
- 現在の胃の状態を直接確認できる
- 胃がんやその前段階を早期に発見できる
- 必要であればピロリ菌除菌につなげられる
という点で、「将来の大きな病気を防ぐための検査」です。
症状が出てから検査をするのではなく、「何も起きていない今」だからこそ意味がある検査と言えます。静岡市では胃がん検診により定期的な胃カメラ検査が検診として受けることができます。

医療的コストと患者さんの負担をどう考えるか
「今の負担」と「将来の負担」
治療や検査には、確かにコストがかかります。
- 定期的な通院
- 薬代
- 検査費用
- 時間的な負担
これらは決して軽いものではありません。だからこそ、本当に必要なのかと考える姿勢は大切であり、医療者としても患者さんへの負担も考慮して提案を行います。
しかし、むやみやたらにこれらを避けて、仮に重い病気を発症した場合の負担はどうでしょうか。
- 入院や手術
- 長期間の通院
- 仕事や日常生活への影響
- 介護が必要になる可能性
それこそ、症状がないうちに治療を行っていた時と比べても多い医療費だけでなく、そもそもの生活そのものや患者さんの人生への影響が大きくなります。できるだけそれは避けなければなりません。
予防医療はコストを減らす医療
症状がない段階での治療や検査は、一見すると、余計な出費のように見えるかもしれません。しかし長い目で見ると、大きな病気を防ぐことで、将来かかるはずだった医療的・経済的・生活上の負担を減らすことにつながります。
これは医療者側の理屈だけではなく、多くの研究でも示されている考え方です。
健診の本当の役割
健康診断は、健康を証明してくれているわけではなく、自覚症状がない異常を見つけて、早期に対応することで健康を維持できるようにするために行います。
血圧、血糖、コレステロール、肝機能、腎機能などは、症状が出る前に採血や検査などでの変化が現れます。
その時点で、薬に限らず、さまざまな対策を行う事で、このまま進むと問題が起こる可能性があるというサインであり、それを早めに対処することで起こるはずだったことを回避できる可能性がでてきます。
早く気づけること自体が価値
健診で異常が見つかり、生活習慣の改善や軽い治療で済むのであれば、それは決して悪い結果ではありません。
何も知らずに過ごし、ある日突然大きな病気が見つかるより早く対策することで、重症になることを防いだり治療の負担がひどくなることを防ぐことができます。
結局は治療を受けるかどうかを決めるのは患者さん
症状がない病気の治療や検査は、人に強制されるものではありません。最終的にどうするかを決めるのは、患者さんご本人ではあります。ただし、その判断の材料として医師などの医療機関は
- 病気がどのように進行するのか
- 放置した場合に何が起こりうるのか
- 治療や検査の目的は何か
- 負担と得られる利益のバランス
を説明し、知ったうえで考えていただくことが、とても大切だと考えています。特にいまのうちに対応すると、将来のリスクが下がる場合は、治療を考えていくことは大事なことです。
まとめ
症状がない状態での治療や検査は、どうしても実感しにくいものです。
しかし、それは「何も起きていないから不要」なのではなく、「何も起きていない今だからこそ意味がある」医療です。
未来の自分の体と生活を、少しだけ先回りして守る。そのための健診や治療であることを、この記事が考えるきっかけになれば幸いです。
みどりのふきたクリニックでは、検査や治療を一方的に勧めるのではなく、背景や考え方を共有しながら、一緒に方針を考えていくことを大切にしています。
気になることがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
