医師会健診センターMEDIOの作成したラサンテに投稿した文章の第3弾です。
2017年4月20日より始まった『ラサンテ』も3年を経過して、執筆グループの3周目に入りました。皆様のご愛読のおかげで長く連載することができて、光栄の至りです。
静岡市静岡医師会は6月に新体制になり、健診センター所長を務めていた福地康紀が医師会長に就任し、健診センター所長は私が務めることになりました。よって3周目のトップバッターは私です。
今回のお話は不整脈です。患者さんに、これまでかかった病気を尋ねると不整脈ですと言われることがあります。どんな不整脈ですかと聞くと「・・・・・・」。実は不整脈はグループ名であり、具体的な病名ではないのです。不整脈は整っていない脈という意味で、英語ではarrythmiaと表現されます。リズムがないという意味でしょう。不正脈と間違える人がいますが、悪事を働いているのではないので間違いです。
では不整脈はいくつあるのでしょうか。学生時代に読んだ教科書には17種類記載されていました。実際、診療していていよく出会う不整脈は10種類ぐらいです。頻拍性、徐脈性、整脈性と3種に分類できます。脈拍は50~100回/分が正常範囲ですので、100回/分以上が頻脈、50回/分未満が徐脈となります。不整脈なのに整脈があるのは矛盾していますが、電気の発生源である右房の洞結節から心筋細胞の隅々まで電気が伝わる刺激伝導系という電気回路が心臓にあり、この経路の異常も含まれるため、脈の乱れない不整脈が存在します。
不整脈の代表的な症状「脈が飛ぶ」ですが、医学的には脈の結滞と表現します。これは期外収縮の症状です。期外ではわかりにくいので早期収縮と理解してください。通常の心拍より早い時期に心房か心室で電気が発生して、間違った収縮が起こります。早期なので心室が十分広がらないうちに収縮するため弱い拍動となり、次の心拍はその分多めの血液が心室を満たし強い拍動になります。期外収縮はまったく悪さをしませんので治療はしません。健診で指摘されても様子を見て大丈夫です。心室性期外収縮が連続して、3拍以上連続すると心室性頻拍という怖い不整脈になります。高円宮殿下が運動中に心停止に陥った時の不整脈ですが、基本的には重度の心肥大や弁膜症、急性心筋梗塞などの心疾患がない場合は発生しません。
不整脈の代表格は心房細動です。肺静脈起始部で発生した電気の渦が心房全体に広がり、鳴門海峡の渦のようになる疾患です。大小さまざまな渦ができますので脈拍はばらばらとなり、絶対不整と言われます。症状は持続的な動悸で、なにも感じない人もたくさんいます。最大の問題点は脳梗塞を合併することです。長嶋茂雄さん、西城秀樹さんと心房細動から脳梗塞になって苦しんだ人は多数おられます。これは抗凝固剤を内服すればほぼ予防できます。心房細動発症から2日もたてば脳梗塞になる危険性がでますので、直ちに治療が必要です。心房粗動は渦が一つですが、同様に治療します。
もう一つ頻拍を起こす病気があります。上室性頻拍で、心房細動とは違い規則性のある頻拍で急に150回/分ぐらい拍動します。心停止や脳梗塞は併発しませんが、動悸で動けなくなることもあります。子供に出現することがあり、運動が誘発することもあります。息をこらえたり、しゃがむことで自力でとめることができます。アブレーションという高周波電流を使って回路を切断する治療が行われます。
徐脈性の不整脈は薬で脈を速くできませんので、血の気が引いたり失神したらペースメーカーを植え込みます。
とにかく動悸や脈の異常を感じたら、お近くの循環器内科を受診しましょう。