健康診断や胃の不調を調べる方法として、バリウム検査(胃透視)と胃カメラ(内視鏡検査)の2つがよく使われます。静岡市の胃がん検診でもどちらも選べることになっています。
では、どちらを選ぶのが良いのでしょうか?それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら、患者さんに合った検査方法を解説します。
バリウム検査とは?
バリウム検査は、造影剤のバリウムを飲んでX線撮影を行い、胃の形や異常を確認する検査です。健康診断などでよく実施されます。直接胃を観察する方法ではなく影絵のような形で白黒の胃の壁の形から診断を行う検査です。
バリウム検査のメリット
✅ 比較的簡単に受けられる(健康診断で広く実施)
✅ 検査時間が短い(10~15分程度)
✅ 胃カメラに比べて苦しくないと感じる方もいる
✅ 胃の全体像がわかるため、胃の形の異常(萎縮や変形)を捉えやすい
1番のメリット胃カメラに比べて直接機材を入れないため苦しくなくできると感じる方がいることです。胃カメラに抵抗がある方は良い選択肢にはなると思います。
また、検査時間は胃カメラに比較すると多少短くなります。
バリウム検査のデメリット
⚠ 細かい病変の発見が難しい(早期のがんや小さなポリープなど)
⚠ 検査後に便秘になりやすい(バリウムが腸に残るため)
⚠ 被ばくのリスクがある(X線を使用するため)
⚠ 異常が見つかった場合、結局胃カメラが必要になることがある
大きなデメリットは胃カメラと比較して早期の病変が見つけにくいです。特に早期胃癌といって内視鏡治療で完治することができる段階で見つけることが難しいことが最大のデメリットと私は考えます。
バリウム検査で異常を指摘された場合は必ず胃カメラが必須となるため、異常がある場合にはバリウムと胃カメラ両方を受ける必要があります。
また、稀ですがバリウムの誤嚥による肺炎や、バリウムがなかなか排便されない場合に腸閉塞を起こすなどの合併症も存在します。
胃カメラ(内視鏡検査)とは?
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は、細いカメラを口または鼻から挿入し、直接胃の内部を観察する検査です。
検診でも多くの病院でされており、一般的な検査ではあります。
胃カメラのメリット
✅ 早期の胃がんや小さな異常も発見しやすい
✅ 病変の組織を採取(生検)でき、病理検査が可能
✅ ピロリ菌感染の有無も確認できる
✅ 必要に応じてポリープの切除や出血部位の治療ができる
✅ 詳細な画像で正確な診断ができる
胃カメラのメリットは、内視鏡での治療の適応になるような早期の胃がんを発見できること、その場で病理検査(精密検査)を行うことが可能です。消化器内科医としては胃カメラを推す理由は、この検査としての精度が高いことがあります。
胃カメラのデメリット
⚠ 嘔吐反射(オエッとなる反応)が強い人にはつらいことがある
⚠ 鎮静剤を使用する場合は、検査後しばらく安静が必要
⚠ バリウム検査よりも費用が高い(保険適用時:約3,000~10,000円)
⚠ 医師の技術により検査の精度が左右される
胃カメラのデメリットはズバリ辛いことです。
胃カメラ=辛い検査と思われている方も多いのではないでしょうか。しかし、現在はイメージされているよりかなり機械が進歩してきており、ボールペンくらいの太さのカメラで鼻からすることでオエオエを起こしにくくなっています。ただ、完全に苦しくないわけではないため、そこはデメリットになります。
当院でも経鼻カメラを使用し苦痛ができるだけ少ない検査を特に心がけています。また、苦痛がそれでも心配な方には少しボーとしてできる鎮静での検査も行っています。(検診以外の場合)
バリウム検査と胃カメラの比較表
それらをもとにバリウムと胃カメラについて比較を表にしてみました。
バリウム検査 | 胃カメラ | |
---|---|---|
検査方法 | X線撮影 | 内視鏡で直接観察 |
検査時間 | 約10~15分 | 約5〜10分(準備として+30分程度かかる) |
病変の発見能力 | 大きな異常は発見できるが、小さな病変の発見は困難(早期発見は難しい) | 早期がんや炎症など細かい異常も発見可能 |
精査の可否 | できない | 生検で診断が可能 |
被ばくの有無 | あり(X線を使用) | なし |
身体への負担 | 比較的少ないが、便秘のリスクあり | 嘔吐反射あり、ごく稀に出血、穿孔 |
検査後の日常生活 | すぐに通常生活可能 | 検査後1時間食事を食べられない |
バリウムと胃カメラどちらを選ぶべき?
それぞれ向いている人をまとめました。
バリウム検査が向いている人
- 定期健康診断でスクリーニング(異常の有無のチェック)をしたい人
- 胃カメラに抵抗がある人(嘔吐反射が強いなど)
- 忙しくて短時間で検査を終えたい人
まずはバリウムが向いている人は、とにかく胃カメラが嫌な人です。また、比較て若く、ピロリ菌がいないことが証明されている人は、いる人に比べれば胃カメラとバリウムの差が少ないかなとは思います。
しかし、検査精度や安全性を比較すると消化器内科医としては胃カメラの方が良いとは考えています。
胃カメラが向いている人
- 胃痛や胸焼けなどの症状がある人(詳しい診断が必要)
- ピロリ菌感染が疑われる人
- 胃がんのリスクが高い人(家族歴がある、ピロリ菌感染歴があるなど)
- バリウム検査で異常を指摘された人(精密検査が必要)
胃カメラが向いている人は、症状がある人、ピロリ菌がいたまたはいる人(慢性胃炎がある)です。ピロリ菌感染による胃炎は胃癌のリスクであり、そういう方は胃カメラの方が良いと考えています。理由としては
- 早期胃がんで発見するメリットが高い
- 慢性胃炎でバリウムでひっかかることも多く2度手間になる
です。胃がんはとにかく早期で見つけることで手術ではなく、内視鏡治療(ESD)で治療が可能となるため、早期発見が大切です。
内視鏡治療はお腹を切ったりするわけではないため、胃が小さくなることもなく、治療後定期的な検査がある程度で普通の生活に戻ることができます。
消化器内科医としては1人でもそういう方が増えてほしいなと切に願っています。また、慢性胃炎があるとバリウムでどうせ引っかかってしまうというのも片一方の理由です。その場合は、2次検査で胃カメラを受けなければならず、2度手間になります。
少しですが被曝もあり、便秘等のリスクもある検査はスキップできるならスキップする方がいいかなと考えています。
まとめ
- バリウム検査は、簡単で広く普及しているが、細かい異常を見逃すことがある。
- 胃カメラは、精密な診断が可能で、病変の組織採取や治療もできる。
- 症状がある人やリスクが高い人は、最初から胃カメラを選ぶのがおすすめ。
- 健康診断のスクリーニングとしてバリウム検査を受けるのも有効だが、異常があれば胃カメラで精査を。
消化器内科医の立場でどちらでも良いのであれば、上記の理由から胃カメラがおすすめです。
どちらの検査を選ぶべきか迷う場合は、最終的にはかかりつけ医などの医師に相談して決めていただくと安心かなと思います。