心臓や腎臓が悪く、糖尿病はないはずなのにSGLT2阻害薬という糖尿病の薬が処方されている?となんとなく気になった方もいるのではないでしょうか。
昨今の研究により、以前は糖尿病に対してのみ使われていた薬が現在は心不全や慢性腎不全の改善に効果があることがわかり使われるようになりました。今回はそれについて解説をしたいと思います。
SGLT2阻害薬とは?
SGLT2阻害薬(エスジーエルティーツーそがいやく)とは、簡単にいうと、尿から糖分を排泄して血液中の糖を減らす薬です。2014 年に発売された比較的新しい薬です。
そのため、多すぎる糖を排出するため、血糖を下げすぎることが少なく低血糖のリスクが低く、体重減少や尿量の増加が期待される薬剤です。一方で尿路感染リスクがあったり、他剤と併用すると低血糖のリスクがあったりと管理が必要な薬剤です。
SGLT2阻害薬が心不全や慢性腎不全で使われる理由
そんなSGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の治療薬として使われていましたが、最近では心不全や慢性腎不全の治療にも効果があることがわかり使用されるようになりました。具体的には
2020年11月には、死亡+心不全悪化による受診を、心不全の標準治療にSGLT2阻害薬を上乗せした群で26%下げた研究(DAPA-HF)を根拠に心不全に適応が拡大されました。
腎不全に対してもCREDENCE 試験、DAPA-CKD試験などで腎保護作用が報告され2021 年 8 月に慢性腎不全に対しても適応が拡大されました。
1. 余分な水分を体の外に出す
SGLT2阻害薬は、尿と一緒に余分な糖や塩分、水分を排出するはたらきがあります。そのため、心臓や腎臓に負担をかける余分な水分が減り、心不全では息切れやむくみが軽くなり、慢性腎不全では腎臓の負担が減ると考えられています。
2. 心臓を助ける効果
心不全では、心臓がうまく血液を送り出せなくなります。SGLT2阻害薬は、心臓の負担を軽くし、心臓の働きを助ける作用があることが研究でわかっています。そのため、心不全の患者さんが長く元気に過ごせるように役立ちます。
3. 腎臓を守る効果
慢性腎不全では、腎臓が少しずつ弱っていきます。SGLT2阻害薬は、腎臓の負担を減らし、腎機能の低下を遅らせることができます。特に、糖尿病がある方の腎臓を守る効果が高いとされています。
また、心臓と腎臓は密接に関連している臓器であり、腎臓を守ることで、心臓にも良い効果があることが知られています。
4. 血圧を下げる
SGLT2阻害薬は、尿と一緒に塩分を排出するため、血圧が下がりやすくなります。高血圧は心臓や腎臓に負担をかけるため、血圧を適切に保つことで病気の進行を防ぐことができます。
注意点
SGLT2阻害薬は効果が期待できる薬ですが、安全に使うためにはいくつかの注意点があります。
脱水に注意
この薬を飲むと尿の量が増えるため、水分不足(脱水)になりやすいで暑い日や発熱・下痢があるときは、こまめに水補給が大切です。
低血糖のリスク(特に糖尿病の方)
SGLT2阻害薬は血糖を下げる薬ですが、インスリンや他の糖尿病薬と併用すると、低血糖になることがあります。
尿路感染症・性器感染症に注意
この薬は尿に糖を出すため、まれではありますが、細菌が増えやすくなり、膀胱炎や性器の感染症(カンジダなど)を起こす可能性があります。
尿のおいが気になる、痛みやかゆみがある場合は早めに医師にご相談ください。
まれに「糖尿病性ケトアシドーシス」が起こることがある
この薬を使っていると、血糖値が高くなくても「ケトアシドーシス」という危険な状態になることが起こります。
そのほかにも手術を行う際の中止方法など注意点があります。中止や開始に際してはしっかりと使いなれた医師に相談するようにしましょう。
まとめ
SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の薬ですが、余分な水分を出す、心臓を助ける、腎臓を守る、血圧を下げるといった働きがあるため、心不全や慢性腎不全の治療にも使われるようになりとても重要な薬となりました。
糖尿病以外にも腎臓、心臓の病気の進行を抑え、生活の質を向上させることが期待できる薬です。
ただし、すべての患者さんに適しているわけではないことや副作用の管理も必要な薬剤であるため、しっかり循環器内科中心に内科の医師と相談しながら適切に使用することが大切です。