便潜血検査が陽性でも、内視鏡で「異常なし」と言われるのはなぜ?

便潜血検査が陽性でも内視鏡で異常なしと言われるのはなぜ?

はじめに:便潜血陽性=がんではありません

健康診断などで行う「便潜血検査」で陽性と出ると、多くの方が「がんではないか」と心配されます。しかし、便潜血陽性イコールすぐに「大腸がん」や「重い病気」というわけではありません。

具体的には便潜血陽性の方の中で大腸がんの可能性は数%程度といわれています。

実際に、便潜血検査が陽性でも、内視鏡検査(大腸カメラ)で異常が見つからないことは少なくありません。ここでは、なぜそんなことが起きるのか、医学的な背景や検査の設計をもとにできるだけわかりやすく解説していきます。

便潜血検査とはどんな検査?

便潜血検査は、便に微量に混じった「血液」を特殊な方法で調べる検査です。

この検査は大腸がん検診として行われる検査で、特に、大腸がんや大腸ポリープなど、腸管からの出血を早期に見つけるために用いられています。

便潜血検査の特徴

検査方法には主に以下の特徴があります。

  • 2日間分の便を採取し、血液の成分を調べる
  • 症状がない人でも、出血を拾い上げることができる
  • 簡単で負担が少ない反面、「精度」には限界がある

この「精度の限界」が、陽性なのに異常が見つからない原因にもつながっています。

便潜血陽性なのに異常が見つからない理由

ではここから、くわしく便潜血陽性なのに精密検査(大腸カメラ)で異常がみつからない理由を説明します。

なぜなら、便潜血検査は非常に敏感な検査ですが、その反面、出血の原因が「病気」ではないことも拾ってしまいます。これを「偽陽性」と呼びます。これは便潜血の検査の感度と特異度の設計が偽陽性が起こる設計になっているからです。

感度と特異度とは?:検査の「性能」を表す大事な指標

検査の効果は感度特異度という2つの指標で評価されます。

感度(sensitivity)とは:「病気を見逃さない力」

感度とは、本当に病気がある人のうち、検査で正しく陽性と判断できる割合のことです。つまり、「病気がある人をどれだけ見逃さずに拾えるか」が感度です。感度が高いと

  • 病気を見逃しにくくなる
  • 陽性が多く出やすい(ただし偽陽性も増える傾向あり)

となります。感度が高い検査は、本当に病気がある人の多くの人を陽性とできる検査(モレが少ない)

そのため、感度が高い検査は検診に向いている検査です。

特異度(specificity)とは:「病気でない人を陽性にしない力

特異度とは、病気がない人のうち検査で正しく陰性と判断できる割合のことです。つまり、「病気がない人をどれだけ無駄に陽性にしないか」が特異度です。

  • 健康な人が間違って陽性になることが少ない
  • 逆に、病気を見逃す可能性が少し増えることもある

特異度が高い検査というのは、陽性であれば異常がある可能性が高い検査(陽性判定の精度が高い検査)です。

そのため、特異度が高い検査は、確定診断など精密検査に向いている検査です。

便潜血検査の「感度」と「特異度」は

実際の便潜血検査(免疫法)のデータをもとにすると、おおよその値は以下の通りです。

検出対象感度特異度
大腸がん60〜90%約90%
大腸ポリープ30〜50%約90%

(※参考文献:Allison JE, et al. J Natl Cancer Inst. 2007【上記と同じDOI】)

この数字から何がわかる?

便潜血検査はできるだけ感度を高めるように設計されています。ただ、大腸がんの感度を高めることは比較的難しいことです。

  • 感度がそれほど高くないため、病気があっても見逃される(偽陰性)可能性がある
  • 特異度は比較的高いが、90%なので健康な人でも一定の割合で「偽陽性」になる

感度から偽陰性の可能性があるため、便潜血の検査は毎年受ける必要性があることと、特異度が90%のため大腸カメラをおこなっても何もない(偽陽性)の可能性があるわけです。

感度と特異度の関係は「トレードオフ」

感度と特異度を両方100%にすることはできません。

感度を高くしようとすると、病気をできるだけ拾おうとするため、健康な人にも陽性が出やすくなり、特異度が下がります

逆に、特異度を高くすると、「本当に病気の人」しか陽性にしないようになるため、病気の人を見逃す(感度が下がる)可能性があります。

検査の設計にはバランスが必要

便潜血検査は、「できるだけ早く大腸がんを拾いたい」という目的のため、感度を優先した設計になっていることが多いです。その結果、多少の偽陽性(異常なしだけど陽性になる)は許容されているのです。

そのため、検査が陽性でも精密検査で異常なしがおこるわけです。

「陽性だったのに何もない」のは「検査が無駄だった」のではない

ここが最も大事なポイントです。

便潜血検査が陽性だったのに、内視鏡で異常が見つからなかったからといって、

  • 検査がダメだった
  • 意味がなかった

というわけではありません。

それは、「感度と特異度のバランスの中で、検診として安全側に倒した検査設計」によって生じている現象です。検査が病気を「拾いすぎてしまう」ことで、「本当に病気の人」を見逃さないようにしているという理解が必要です。

便潜血検査は、大腸がん検診としてエビデンス(研究での証明)が確立されており、大腸がんの死亡率を低下させる効果が示されています。検診として有効であることが証明された数少ない検査です。

便潜血検査は、リスクを早めに察知するための「きっかけ」にすぎません。

異常が見つからなくても、あなたの腸の健康を守るためには大きな意味があります。そして、定期的な検診と医師との相談が、将来のリスクを減らす一番の方法です。

異常が便潜血陽性であっても、精密検査で異常なしの可能性がある理由です。なにかご不明点があれば診察時になんでもお尋ねください。

参考文献

  • Shaukat A, et al. “Long-term mortality after negative fecal occult blood screening: a prospective cohort study.” Ann Intern Med. 2013;158(10):658-665. DOI: 10.7326/0003-4819-158-10-201305210-00003
  • Allison JE, et al. “Screening for Colorectal Neoplasms with New Fecal Occult Blood Tests: Update on Performance Characteristics.” J Natl Cancer Inst. 2007;99(19):1462–1470. DOI: 10.1093/jnci/djm180

みどりのふきたクリニック

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