深部静脈血栓症(DVT)とは?―エコノミークラス症候群とも関係する病気についてやさしく解説

はじめに

「長時間の飛行機移動のあとに脚が腫れてきた」
「足が重くてだるい、押すと痛い」

このような症状があるとき、もしかすると「深部静脈血栓症(DVT)」という病気が関係しているかもしれません。DVTは放っておくと命にかかわる「肺塞栓症」に進展することもあるため、早期発見と治療がとても重要です。

深部静脈血栓症(DVT)とは?

DVTとは、太ももやふくらはぎなどの深い静脈に血のかたまり(血栓)ができる病気です。血液がうまく流れずに滞ると、血が固まりやすくなり、静脈内で血栓ができてしまいます。

この血栓が、血流に乗って肺に流れてしまうと「肺塞栓症(PE)」を引き起こし、突然の呼吸困難や胸の痛み、最悪の場合は命にかかわることもあります。

DVTの主な原因:3つの要素「Virchowの三徴」

DVTの発症には、以下の3つが関係しています(Virchowの三徴):

  1. 血液の流れが滞る(長時間の座位、寝たきりなど)
  2. 血管内皮の損傷(手術、けが、炎症など)
  3. 血液が固まりやすい状態(がん、妊娠、経口避妊薬、先天性凝固異常など)

特に長く寝たきりの方、癌などの方、薬なども原因となるため注意が必要です。

どんな人がかかりやすいの?

なりやすい患者さんは上のVirchowの三徴を踏まえると

  • 高齢者
  • 手術後の患者さん(特に整形外科やがん手術)
  • 長時間動けない状態が続いた方(入院、旅行、車いすなど)
  • 妊娠・出産直後の女性
  • ピル(経口避妊薬)を内服している方
  • がんの治療中の方またはがんのために体調がすぐれない方

が罹りやすい病気であると言えます。

深部静脈血栓症の主な症状は?

DVTは無症状のことも多く、その場合は見逃されやすい病気です。しかし、次のような症状があれば注意が必要です。

  • 一側の脚だけが腫れている(浮腫んでいる)
  • ふくらはぎが痛い、重い
  • 皮膚が赤紫色、熱っぽい
  • むくんでいるところを押すと痛い(Homan徴候)

また、もし突然息苦しくなったり、胸が痛くなった場合は深部静脈血栓が肺に飛んだ肺塞栓症の可能性があり、すぐに救急対応が必要です。

深部静脈血栓症はどうやって診断するの?

深部静脈血栓症は下記のような方法で診断していきます。

問診と診察

  • 脚の腫れや圧痛の有無を確認
  • WellsスコアなどでDVTのリスク評価を行います(ガイドライン推奨)

まず大切なのはやはり診察と問診です。上でも触れたようにむくみでも片足だけが浮腫んでいる方や、DVTになりやすい状況にあった方などではないか?を問診や診察で洗い出していきます。

血液検査(Dダイマー)

続いては採血の検査です。Dだいまーという項目を測定する場合があります。

この検査は血栓があると高値になりますが、Dダイマーだけで確定診断はできません。あくまで否定に使う検査です。(除外目的)

超音波検査(下肢静脈エコー)

診断には最もよく使われる方法は足のエコー検査です。エコーでは直接血栓があるかもしれない足の血管をみて、血栓の有無を可視化します。

これにより診断に至るケースが多いです。

CT静脈造影(重症例、肺塞栓症が疑われるとき)

肺塞栓症という、足にできた静脈の血栓が肺に飛んで命に関わる病気が疑われる場合(血圧の異常や呼吸の異常等がある)は造影剤を使ったCTを撮影する場合があります。

その場合は救急病院など総合病院で行われます。

治療はどうするの?

日本循環器学会の「VTE診療ガイドライン(2020年改訂版)」および米国Chestガイドライン(ACCP 2016)に基づき、以下の治療が推奨されます。

抗凝固療法(血を固まりにくくする薬)

まずは血栓を溶かす必要があります。下記のような治療が用いられます。

  • 初期治療にはDOAC(直接経口抗凝固薬)(例:エドキサバン、アピキサバンなど)が第一選択
  • 出血リスクの高い人にはヘパリン+ワルファリン併用

圧迫ストッキング

脚の腫れや合併症(静脈瘤など)を防ぐ目的で用います。

入院 or 外来治療?

  • 安定している軽症例では外来での治療開始も可能(ガイドラインでも推奨)とされます。ただ重症例では入院での治療が必要なケースもあります。

DVTは予防が最も大切です

DVTは予防できる病気です。リスクの高い人には以下の対策が勧められます。

  • 手術後は早めの離床(動き始めること)
  • 弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置(IPC)の使用
  • 飛行機・車の長距離移動では、1時間に1回程度足を動かす・歩く
  • 水分をしっかり摂る

すべてを予防することはできませんが、ハイリスクの方は自分がリスクが高いことを知っておくことも大切でしょう。

おわりに

深部静脈血栓症(DVT)は、「突然倒れる」といったイメージがあるかもしれませんが、実際には静かに進行する病気です。日常生活の中でも予防できるポイントが多くありますので、「ただの脚のむくみ」と思わず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。

みどりのふきたクリニックでは、DVTの早期診断や予防指導も行っております。お気軽にご相談ください。

根拠となるガイドライン・参考文献

  1. 日本循環器学会, 日本血栓止血学会 (2020)
    静脈血栓塞栓症(VTE)診療ガイドライン(2020年改訂版)
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/11/JCS2020_Saito.pdf
  2. Kearon C, et al. (2016)
    Antithrombotic Therapy for VTE Disease: CHEST Guideline and Expert Panel Report.
    Chest. 149(2):315–352.
    DOI: 10.1016/j.chest.2015.11.026
  3. Wells PS, et al. (2003)
    Evaluation of D-dimer in the diagnosis of suspected deep-vein thrombosis.
    N Engl J Med. 349(13):1227–1235.
    DOI: 10.1056/NEJMoa023153

みどりのふきたクリニック

診療科目循環器内科、消化器内科、内科、訪問診療
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