はじめに
便秘というと、「数日間うんちが出ない」「お腹が張る」といったイメージが強いかもしれません。
しかし、実際には便は毎日出ているのに便秘、水みたいな便のみ出る。など便秘は多様な症状として現れ、本人も周囲も気づかないまま体調不良の原因になっていることがあります。
この記事では、見落とされやすい「便秘に隠れた症状」について、医学的な根拠に基づいて詳しく解説します。
便秘とはそもそもどういう状態?
便秘とはどのような状況なのでしょうか。
一般的には「3日以上排便がない」といった基準で語られることが多い便秘ですが、実際には次のような特徴を含むことがあります。これだけに限らず
- 排便が週3回未満
- 排便に強い力みが必要
- コロコロとした硬い便
- 排便後のすっきり感がない
このように、回数よりも「便がスムーズに出ない状態」そのものが便秘とされます(Rome IV基準)。具体的には
- 以下の症状の 2 つ以上がある
- 排便の 1/4(25%)以上にいきみがある
- 排便の 1/4(25%)以上に兎糞状または硬便(Bristol 便形状スケール 1 ~ 2)がある
- 排便の 1/4(25%)以上に残便感がある
- 排便の 1/4(25%)以上に直腸肛門の閉塞感
- あるいはつまった感じがある
- 排便の 1/4(25%)以上に用手的に排便促進の対
- 応をしている(摘便,骨盤底圧迫など)
- 自然排便(SBM)回数が週に 3 回未満
- 下剤を使わないときに軟便になることは稀
- 過敏性腸症候群(IBS)の基準を満たさない
です。排便がすっきり出せないことが続くことは慢性便秘であると言えます。
便秘の意外な症状は?
便秘は消化器症状だけでなく、さまざまな全身症状として現れることがあります。以下のような症状が、実は便秘に関係していることがあるのです。
頭痛
便秘による腸内環境の悪化や毒素の再吸収が、自律神経に影響し、頭痛を引き起こすことがあるとされています。便がすっきりでないことでこのような症状を引き起こすリスクになっている可能性があります。
🧠 特に慢性的な便秘では、片頭痛や緊張型頭痛の頻度が高まるとの報告もあります(Fukudo, 2011)。
吐き気・食欲不振
便が腸内に長くとどまると、ガスや内容物が逆流しやすくなり、胃の働きにも影響が出るため、吐き気や食欲不振が起こることがあります。
なんとなくお腹が張る、なんとなく気持ち悪いという症状は意外と便秘が原因となっている場合があります。
肌荒れ・ニキビ
腸内環境の悪化により、体内に炎症性の物質や有害ガスが増えると、皮膚にもその影響が現れます。便秘と肌トラブルの関連性は、漢方や東洋医学でも古くから注目されています。
腰痛
便が直腸にたまることで、腰部や仙骨付近に圧迫が生じ、筋肉や神経に影響して痛みを感じることがあります。背中の方が痛い。という症状も実は便秘というケースもあります。
不眠・イライラ
セロトニンという「心を落ち着ける」脳内物質の9割以上は腸で作られているとされています。そのため、腸の不調はメンタルにも大きな影響を及ぼす可能性があります。
頻尿・残尿感
便秘で、直腸というお尻の穴の近くに便が溜まって、それが膀胱を圧迫することで、頻尿感や排尿障害が起こることもあります。特に原因がはっきりしない残尿感で泌尿器科で異常がない場合、便秘の影響を疑う必要があります。
高齢者や子どもは特に注意
特に高齢者やこどもではすっきりしないことに慣れていたり症状をうまく言えないことで、「お腹の張り」「食欲低下」「せん妄(ぼーっとする)」といった一見関係のなさそうな症状が、実は重度の便秘によることがあります。
また、子どもでは「おねしょ」「お腹が痛い」「元気がない」といった症状も、便秘が原因のことがあります。
また、胃食道逆流症(GERD)や痔、尿路感染症など便秘によって悪化する病気もあります。
便秘により腹圧が上昇すると、胃の内容物が逆流しやすくなり、胃食道逆流症(逆流性食道炎)の症状が悪化します。また、いきむことで痔が悪化することもあります。女性では、便秘が長期化すると尿路感染のリスクも上がるという報告もあります。
また、便秘の中には実は大腸がんの症状だった。という方もいらっしゃいます。そのため、長引く便秘、はたかが便秘と思ってほうっておかないことが大切です。
自己判断せず、医師に相談を
便秘は「たかが便秘」と見過ごされがちですが、日常生活に大きな影響を与え、他の病気の引き金になることもある症状です。
数日間出ていない、お腹が張るといった典型的な症状はもちろん、「なんとなく体調が悪い」といった曖昧な不調の裏に、便秘が隠れている可能性があります。
慢性的な便秘や、症状が複数重なる場合は、ぜひ医師に相談してください。
参考文献
- Bharucha AE, et al. “American Gastroenterological Association technical review on constipation.” Gastroenterology. 2013 Jan;144(1):218-38.e2. doi:10.1053/j.gastro.2012.10.028
- Fukudo S. “Stress and functional gastrointestinal disorders.” J Gastroenterol Hepatol. 2011 Mar;26 Suppl 3:90-2. doi:10.1111/j.1440-1746.2010.06537.x
- Quigley EM. “Gut microbiota and the role of probiotics in therapy.” Curr Opin Pharmacol. 2011 Oct;11(5):593-603. doi:10.1016/j.coph.2011.08.001