採血でがんを発見できるのかという疑問について
「採血でがんが見つかりますか?」――診察でよく聞かれる質問の一つです。血液検査は身近で簡単な検査ですが、それで「がん」がわかるのでしょうか?
結論から言えば、特に早期と言われる症状が出ていない時に採血で癌を見つけることは採血だけでは非常に難しいのが現実です。
一部のがんでヒントとなるサインが血液中に現れることはありますが、決して確定診断にはなりません。
この記事では、採血でわかること・わからないことを整理しながら、癌をできるだけ早期に見つけるために受けるべき検査についておはなしします。
採血で「がん」が分かるとはどういうことか?
採血ではなぜがんがみつけられないのでしょうか。
血液検査はあくまで「補助的な手がかり」
まず第一に、血液検査のみががんと診断されるのは、血液がんなどごく限られたものでのみです。なぜなら血液検査では、がんの可能性を示す「異常値」が出ることがありますが、これが直接「がんの証明」にはなりません。
実際にがんかどうかを判断するには、CTや内視鏡検査、組織検査(生検)といった画像や細胞レベルの確認が不可欠です。つまり、採血はがんの「ヒント」にはなることがあっても、「確定」には至らないということです。
腫瘍マーカーとは
また、腫瘍マーカーという検査項目について聞いたことがあるかたもいるかと思います。腫瘍マーカーとは、がんに関連して血液中に増える物質のことで、代表的なものとしては以下のような種類があります。
腫瘍マーカー | 主に関連するがん |
---|---|
CEA | 大腸がん、肺がん、胃がんなど |
CA19-9 | 膵臓がん、胆道がん |
AFP | 肝臓がん |
PSA | 前立腺がん |
CA125 | 卵巣がん |
腫瘍マーカーは万能ではない
ではこれらの採血をおこなえばよいのではないか?そう思われるかもしれません。しかし、これらは下記のような理由でがん検診には適しません。
- がん以外の病気(炎症、良性腫瘍など)でも上昇することがある
- 早期がんでは上昇しないことも多い
- マーカーの種類によっては、特定のがんにしか対応しておらず、全てを図ることが現実的ではない
そのため腫瘍マーカーはスクリーニング(がんを広く探す目的)には適していません。また、癌の健診としての腫瘍マーカーは保険で行うことはできません。
その他の血液の異常からがんを疑う場合も
ただ、腫瘍マーカーではなく、さまざまな採血の兆しからがんの診断の手掛かりとなる場合があります。具体的には
- 貧血(例:大腸がんによる慢性出血)
- 炎症反応の上昇(CRPなど)
- 白血球や血小板数の異常(血液のがんなど)
ただし、これらの異常もがん以外の原因で起こりうるため、継続して続く場合には状況を考えて精密検査を検討することになります。
がんを見逃さないために大切なのは「がん検診」
しかし日常診療の採血だけではなかなかがんの診断が難しい場合もあります。
採血だけでは早期がんは見つけにくい
早期のがんは血液中に明らかな異常を出さないことが多く、採血では検出できません。
とくに、大腸がんや胃がん、肺がんなどは、定期的な検診を受けてこそ早期に見つけられる病気です。
特に重要なのが「便潜血陽性時の大腸カメラ」
便潜血検査は、大腸がん検診の一環として多くの市町村で実施されています。便潜血検査は、体への負担が少なく、費用もかなり安いため、検診としての効果が証明されている検査です。
また、この検査で陽性になった場合、必ず大腸内視鏡(大腸カメラ)を受けることが推奨されます。

実際、便潜血陽性者のうち数%から早期の大腸がんが見つかることが知られています。
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colorectal.html
胃がん検診も大切
胃がんは、内視鏡での早期発見によって根治が期待できるがんのひとつです。
バリウム検査や胃カメラの定期検診によって、症状が出る前の段階で発見される例が多数あります。
症状がある方への胃カメラ検査のほか、静岡市では胃がん検診をおこなっており、2年に一度対象年に検査を受けることができます。

まとめ – 採血だけに頼らず、検診を受けましょう
- 採血ではがんの「兆候」がわかることはありますが、「がんの確定診断」には至りません。
- 腫瘍マーカーや他の血液の異常はあくまで補助的な情報で、過信すべきではありません。
- 特に便潜血陽性になったときには、大腸カメラを受けることが非常に重要です。
- 胃がん検診、肺がん検診などの定期的ながん検診が、がんを早期に見つけ、治療に結びつける鍵となります。
体調に不安がある場合や、検診のタイミングが気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。みどりのふきたクリニックでは、必要に応じて適切ながん検診をご案内しています。
参考文献・参考情報
- Duffy MJ, et al. Tumor markers in cancer: Value and limitations. Clin Chem Lab Med. 2019;57(6):803-820. doi:10.1515/cclm-2018-1206
- Sturgeon CM, et al. National Academy of Clinical Biochemistry Laboratory Medicine Practice Guidelines. Clin Chem. 2008;54(12):e11-e79. doi:10.1373/clinchem.2008.105601
- 国立がん研究センター がん情報サービス