はじめに:大腸カメラの目的と重要性
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)は、大腸の中を直接観察し、ポリープやがん、炎症などの異常を早期に発見するための検査です。特に大腸がんは早期発見すれば治癒が可能な病気であり、大腸カメラによる定期的なチェックが命を救うこともあります。
しかし、「どれくらいの間隔で検査を受けるべきか?」という疑問に対しては、年齢や既往歴、リスク要因によって答えが変わります。以下では、状況別にその適切な頻度について詳しくご説明します。
一般的な方の場合:大腸カメラは5〜10年に1回が目安
症状やリスクがない場合の基本的な指針
特に症状がなく、ポリープやがんの既往がない方は、50歳を目安に最初の大腸カメラを受けることが推奨されています。その後、異常がなければ5〜10年に1回程度が一般的な目安とされています【1】。
この間隔の根拠は、腺腫性ポリープががんに進展するのに通常10年程度かかるとされているためです。よって、一定の間隔での検査が、がんの発症を未然に防ぐことにつながります。
ポリープを指摘された方:3〜5年ごとの経過観察が必要
ポリープの数や種類によって変わる
一度でも腺腫性ポリープが見つかった方は、がんのリスクがやや高くなります。ポリープの**大きさ、個数、組織型(腺腫かどうか)**によって再検査のタイミングが変わります。
- 1~2個の小さな腺腫性ポリープ:3〜5年で再検査
- 3個以上のポリープ、または大きなもの(10mm以上):1〜3年で再検査
このような方では、ポリープが再発する可能性があるため、定期的なフォローアップが非常に重要です【2】。
大腸がんの家族歴がある方:40代から検査を開始することも
家族歴がリスク因子になる理由
大腸がんの家族歴(とくに1親等内に50歳未満で診断された人がいる場合)がある方は、遺伝的なリスクが高いとされています。米国消化器病学会では、「がんと診断された年齢の10年前」または「40歳」からの検査を推奨しています【3】。
このような高リスクの方では、3〜5年ごとの定期的な内視鏡検査が必要です。
症状がある場合は年齢にかかわらずすぐに検査を
次のような症状がある方は、早めの受診を
- 血便(とくに赤い血が混じる、便に血がつく)
- 便が細くなる
- 腹痛や下痢・便秘の繰り返し
- 原因不明の体重減少や貧血
これらの症状は、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)などのサインである可能性があります。年齢に関係なく、大腸カメラでの評価が必要です。
「クリーンコロン」の概念:ポリープがない=一時的に安心
一度「きれいな大腸」と確認されれば…
検査でポリープがなかった場合、医師から「クリーンコロン(Clean Colon)」と説明されることがあります。これは、現時点では大腸がきれいでがんや前がん病変がない状態を指し、その後の検査間隔を延ばせる可能性があります。
ただし、この状態も永続的な保証ではありません。生活習慣や加齢によって将来新たなポリープができる可能性もあるため、次回検査のタイミングについては医師と相談しましょう。
日本と海外で異なる検査の方針
海外(とくに米国)ではスクリーニングが普及
米国では、45歳以上の全ての成人に対し、大腸がんスクリーニングが推奨されています(American Cancer Society, 2021)【4】。一方、日本では「症状があれば内視鏡」「便潜血で陽性なら内視鏡」という運用が多く、症状のない人のスクリーニング内視鏡は十分に普及していません。
しかし、予防医学の観点からは、早めのスクリーニングが合理的だとする声も増えています。
医師との相談で最適な検査計画を立てましょう
大腸カメラの適切な頻度は、「一律」ではなく、個人ごとのリスクに応じて調整する必要があります。検診で便潜血が陽性になった、過去にポリープを取った、家族にがんの人がいる、など一つひとつが大切な情報です。
当院では、患者さんのリスクを総合的に評価したうえで、過剰でも不足でもない最適な検査間隔を提案しています。
まとめ:大腸カメラは「定期的に」こそ意味がある
- 健康な人でも50歳から5〜10年に1回が目安
- ポリープ歴のある人は3〜5年ごと
- 家族歴や症状のある人はもっと早く、頻回に
- どの間隔が自分に適切か、医師と相談を
引用文献・参考資料
- Lieberman DA, et al. “Guidelines for colonoscopy surveillance after screening and polypectomy.” Gastroenterology. 2012;143(3):844-857. DOI: 10.1053/j.gastro.2012.06.001
- Nishihara R, et al. “Long-Term Colorectal-Cancer Incidence and Mortality After Lower Endoscopy.” N Engl J Med. 2013;369:1095–1105. DOI: 10.1056/NEJMoa1301969
- Rex DK, et al. “Colorectal cancer screening: Recommendations for physicians and patients from the U.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer.” Am J Gastroenterol. 2017;112(7):1016-1030. DOI: 10.1038/ajg.2017.174
- American Cancer Society. “Colorectal Cancer Screening Guidelines.” Updated May 2021. https://www.cancer.org
- https://gastro.org/clinical-guidance/follow-up-after-colonoscopy-and-polypectomy-a-consensus-update-by-the-u-s-multi-society-task-force-on-colorectal-cancer/?utm_